「悪い報告ほど早く」。新人研修でも、管理職研修でも、必ずといっていいほど聞く言葉です。ところが現場では、悪い報告ほど遅れて、しかも小さく丸めて上がってきます。「部下が報告してこない」「ミスを報告しない」と悩んでいる管理職の方も多いのではないでしょうか。
以前、X(旧Twitter)に「管理職になった人へ」という短い箇条書きを投稿しました。その2つめに書いたのが「悪い報告ほど感謝する」です。ほかの投稿に比べて多くの方に「いいね」をいただき、同じことで悩んでいる方が多いのだと感じました。
アクセンチュアで12年、数百人規模のプロジェクトでPMOをしてきて思うのは、悪い報告が早く上がるかどうかは、報告する側の心がけよりも「報告を受けた側が、最初にどう反応するか」で決まる、ということです。この記事では、悪い報告が上がってこない理由と、報告しやすい環境づくりのために現場で効いたやり方をまとめます。
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「順調です」が続く定例会議で起きていること
システム開発の進捗定例では、みな一様に「順調に進んでいます」と報告します。少し突っ込まれると「その部分は残業でカバーできる範囲です」。ところが実態は、すでに残業ではカバーしきれない遅れが出ていたり、大きなテコ入れが必要な状態になっていたりします。
「遅れている」から「遅れています」と言う。当たり前のことですが、これがなかなか言えないのが人間です。恥ずかしい、見栄を張りたい、怒られるのが怖い。私自身にも、そうしてしまった経験があります。だから、報告しない人を責める気にはなれません。
もう一つ、怖いサインがあります。誰も質問しなくなることです。うまくいかなかったプロジェクトを振り返ると、会議は予定どおり、資料も問題なし、進捗も順調。一見何も問題がないのに、水面下では「聞いても無駄かな」「今さら聞きづらいな」という空気が広がっていました。分からないことがなくなったのではなく、聞かなくなっただけ。質問の数が減ったときは、悪い報告も止まっていると考えたほうが安全です。
部下が悪い報告をしてこない3つの理由

悪い報告が上がってこない現場には、たいてい次のどれかがあります。どれも、報告する側の性格の問題というより、受け取る側がつくっている状況です。
① 報告した人が「損」をする
悪い報告をした瞬間に、叱られる、犯人捜しが始まる、追加の資料作りを命じられる。こうした経験を一度でもすると、人は次から報告を遅らせます。部下の信頼を失う管理職は、能力やコミュニケーションの巧拙よりも、失敗したときの振る舞いに問題があることが多いと感じています。
② 「まだはっきりしないから」と抱え込む
「原因が分かってから」「対策がまとまってから」報告しよう。まじめな人ほど、そう考えて一人で抱えます。でも問題は、抱え込むほど悪化し、選択肢が減っていきます。期限の3日前に知りたかったことを1日前に知らされて、「なぜもっと早く言わなかったのか」となる。プロジェクトでは何度も見てきた光景です。
③ 否定から始まる空気がある
フィードバックは否定から始まる。動けば「余計なことをするな」と言われる。失敗すれば評価が下がる。こんな空気の中では、人は動けませんし、報告もしなくなります。悪い報告が上がらないのは、その空気に対する、部下なりの合理的な反応です。
悪い報告の「芽」に最初に気づくのは、実は手を動かしている開発メンバーです。現場の小さな違和感を言葉にできる力は、そのまま上流工程やPMOで活きます。開発経験を活かしてPMOに進みたい方は、エンジニア登録ページもご覧ください(情報収集だけのご登録も歓迎です)。
悪い報告ほど早く上がるチームにするために、効いたこと
では、受け取る側は何を変えればよいのか。私が現場でやってきたこと、効いたと感じていることを挙げます。
最初の一言は「ありがとう」にする
悪い報告を受けたら、内容がどんなにまずくても、最初の一言は「教えてくれてありがとう」にします。言いたいことは山ほどあっても、それは後です。報告した人が「言ってよかった」と思えるかどうかで、次の報告のタイミングが決まります。悪い報告ほど感謝するのは、優しさではなく、プロジェクトを守るための仕組みだと考えています。
犯人捜しより、原因探しと対策
「誰がやったのか」から話し始めると、場は一気に守りに入ります。聞くべきは「何が起きたのか」「なぜ起きたのか」「次に何をするか」。原因と対策に話を向け続けると、報告した人も一緒に考える側に回ってくれます。
「まだ分かりません」を歓迎する
確定していなくてもいい、「まだ分かりません」「確認中です」で上げてほしい、と最初に伝えておきます。そのうえで、会議では質問が出ているかを気にかけます。PMOとして、質問の数は大事な指標の一つだと思っています。質問が出る場では、悪い報告も出てきます。
報告の「型」を渡しておく
報告が遅れる理由の一つは、「どう言えばいいか分からない」ことです。だから型を渡しておきます。私がよく伝えているのは次の4つです。
- 問題が起きたら、まずすぐ共有する
- 現状を整理して伝える(何が起きていて、何に影響するか)
- 自分なりの対策案を添える(完璧でなくていい)
- 「どう思いますか?」と周りを巻き込む
完璧な答えは要りません。早く共有すれば、チーム全体で考えられます。
私自身、早い報告に助けられた場面があります。複数の会社が関わるプロジェクトで、ある一社の作業に遅れが出たときのことです。その会社から早い段階で「遅れそうです」と報告をもらえていたので、遅れを取り戻すための調整を、ほかの会社とも前もって進めることができました。結果として、大きな遅延になる前にリカバリが間に合いました。
早く報告をもらえれば、それだけ打てる手が増えます。そしてもう一つ大切なのが、遅れを解消するときには、いろいろな関係者を巻き込むことです。遅れている当事者だけで何とかしようとせず、前後の工程や周りの会社も含めて段取りを組み直します。そのための時間を生んでくれるのが、早い報告なのだと考えています。
報告する側(開発メンバー)にもできること
受け取る側の話が中心でしたが、報告する側にもできることがあります。いちばん効くのは、当たり前のことを、淡々と、大きな声で言うことです。
たとえば「サボってできませんでした。今週はサボりません。今週終わらせます」。少し極端な例ですが、これだけ正直に言えると、プロジェクトの進み方はずいぶん健全になります。嘘がなくなり、全員が同じ現実を前提に話せるので、「じゃあ何を優先して、どう終わらせるか」という建設的な議論が始まるからです。
信頼は、失敗しないことで得るものではありません。失敗したあと、どれだけ早く、どう報告するかで決まります。この感覚は、開発からPMOや上流工程に進んだときにも、そのまま武器になります。
まとめ:悪い報告が早く上がるかは、受け取る側で決まる
- 「順調です」が続き、質問が減ったら、悪い報告が止まっているサイン
- 報告が上がらない理由は、報告すると損をする/抱え込む/否定から始まる空気
- 受け取る側は「まずありがとう」「犯人捜しより原因と対策」「まだ分かりませんを歓迎」「報告の型を渡す」
- 報告する側は、当たり前のことを淡々と大きな声で
「悪い報告ほど早く」は、部下に求めるスローガンではなく、受け取る側がつくる環境の結果です。明日の定例で悪い報告が出たら、まず「ありがとう」から始めてみてください。
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