「入ってみたら、聞いていた話と違った」。SESや業務委託で働くエンジニアにとって、いちばん避けたい事故のひとつです。開発のつもりで入ったらテストの担当だった。リモート中心と聞いていたのに、ほぼ毎日の出社だった。間に何社入っているのか、最後まで分からなかった――。

こうしたずれは、運が悪かったから起きるわけではありません。プロジェクトの現場でいう「合意ができていなかった」状態が、案件選びの入口で起きているのです。この記事では、SES案件の選び方として、ご提案を受けた時点で確認しておきたい6つの項目と、面談での聞き方、途中から入る案件での引き継ぎの受け方、そして「選びすぎない」ための考え方をまとめます。

提案の段階で確かめて、納得して入れる現場へ。
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SES案件で「話が違う」が起きるとき

ずれが表に出るのは、たいてい現場に入ってから数週間たったころです。最初の数日は、環境づくりや資料読みで過ぎていきます。実際の作業が始まり、会議に出て、チームの進め方が見えてきたところで「あれ、思っていた役割と違う」と気づく。そのときにはもう、契約も体制も動き出しています。

本人にとっては「聞いていなかった」、提案した側にとっては「伝えたつもりだった」。どちらかが嘘をついているわけではなく、同じ言葉を別の意味で受け取っていた、ということがほとんどです。

ずれが生まれる3つの原因

提案時に確認したい6項目(商流・体制・役割・勤務形態・単価・現場の空気)を表したアイコン図
ご提案の時点で確認したい6項目。どれも「入ってから」では変えにくいものです

1. 言葉の定義が人によって違う

「開発メンバーとして」「リモート中心」「上流寄り」。どれも案件の説明でよく使われる言葉ですが、受け取る人によって中身が変わります。

プロジェクトの現場でも同じです。「このシステムの不具合をまとめておいて」と頼んでも、「不具合」の範囲も「まとめる」の形も人によって違うので、あとでずれが出ます。だから現場では、「何を、どこまで、どの形で」を、解釈のブレようがないところまで具体的にしてから合意します。案件選びでも、言葉のまま受け取らず、中身まで確認することが大切です。

2. 聞きづらくて、確認しないまま進む

単価や商流は、聞いてよいのか迷う項目です。検索候補に「SES 単価 教えてくれない」が出てくるように、知りたいのに聞けていない人は少なくないはずです。

ただ、プロジェクトでいちばん怖いのは、分かったふりをして進むことです。用語の意味を確認する人は、経験が足りないのではなく、認識のずれを防ぐことの大切さを知っている人です。「それは具体的にどういう意味ですか?」と聞くことは、失礼ではありません。

3. 情報が人を経由するたびに薄くなる

商流が深くなるほど、現場の情報は何社かを経由して届きます。伝言のたびに、細かい条件や現場の空気は抜け落ちていきます。提案する側も、すべてを知っているとは限りません。だからこそ「分かっていること」と「まだ分からないこと」を分けて聞くことに意味があります。

提案時に確認したい6項目

ライフワンズソリューションズでは、案件をご提案する時点で、次の6項目を開示することにしています。「入ってみたら話が違った」をつくらないためです。他社の案件を検討するときにも、そのまま確認リストとして使えます。

① 商流:何次請けか、間に何社入っているか

商流は、単価だけでなく、現場との距離にも関わります。間に入る会社が多いほど、要望や相談が届くまでに時間がかかります。「元請けから数えて何社目か」「直接やりとりする相手はどの会社の誰か」を聞いておきましょう。

② 体制の人数:チームの規模と、プロジェクト全体の規模

自分が入るチームが5人なのか、全体で数百人のプロジェクトの一部なのかで、仕事の進め方はまったく変わります。全体の規模が大きいほど、調整や報告の比重が増えます。

③ 任される役割:開発・リーダー・PMOのどこから入るか

「開発メンバー」と一口に言っても、設計から入るのか、実装だけなのか、テストが中心なのかで経験の積み方が変わります。入ったあとの役割の広がり方(半年後に何を任されうるか)まで聞けると、キャリアの判断がしやすくなります。

④ 勤務形態:常駐・リモートの比率と、出社の頻度

「リモート可」は、毎日リモートなのか、週に何日か出社するのかで意味が変わります。立ち上げ期だけ常駐、繁忙期は出社など、時期による変化も確認しておきましょう。

⑤ 単価と条件:想定される単価・報酬と、契約の形態

金額そのものに加えて、精算の幅(何時間から何時間まで)、契約期間と更新の考え方も聞いておくと、あとで食い違いが起きにくくなります。

⑥ 現場の空気:進め方、会議の多さ、忙しい時期

書類には出てこないけれど、働きやすさを大きく左右するのがここです。会議の多さ、意思決定の速さ、忙しくなる時期。提案する側が現場を知っているかどうかも、この質問への答え方で見えてきます。

面談では「分かっていること」と「未定のこと」を分けて聞く

6項目すべてに、最初から明確な答えが返ってくるとは限りません。そのときは「今の時点で分かっていること」と「まだ決まっていないこと」を分けて聞き、未定のものは「いつごろ分かりますか」と確認しておくのがおすすめです。うまくいくプロジェクトほど「まだ分かりません」「確認中です」という言葉が正直に飛び交う、というのは現場で何度も見てきたことです。

6項目を提案の段階で確かめておくと、入ってからの「話が違う」は防ぎやすくなります。条件を一つずつ確かめながら、次の現場を選びたい方は、エンジニア登録ページからご相談ください。

途中から入る案件は「引き継ぎ」があるかを確認する

6項目に加えて、特に途中から入る案件では、引き継ぎがあるのかを確認しておきましょう。前任者はいるのか、誰から、どれくらいの期間で引き継ぎを受けられるのか。ここがあいまいなまま入ると、最初の数週間を状況の把握だけで使ってしまいます。

私の場合、途中から入る案件では、引き継ぎと一緒に「改善」もセットでお願いされることが多くあります。そのため、細かい内容をすべて受け取ろうとするよりも、「最低限とは何か」に注意して引き継ぎを受けるようにしています。前任者のやり方を細部までなぞることより、改善を進めておくことのほうが重要だからです。

引き継ぎで押さえる「最低限」

何が最低限かは現場によって違いますが、たとえば次の3つは、あとから取り戻すのが難しいものです。

  • 止まっている判断:「持ち帰って検討」のまま残っている宿題は何か。誰の判断待ちか。
  • 人のつながり:誰が決める人で、誰に相談すれば話が通るのか。
  • 資料とアカウントの置き場所:課題管理表や議事録、各種アカウントがどこにあるか。

細かな経緯や過去のやりとりは、改善を進めながら必要になったときに取りにいけば間に合います。

補足:引き継ぎがうまくいかない典型パターン

引き継ぎの失敗については、プロジェクト支援の会社などがよくあるパターンをまとめています。主なものを挙げると、次のとおりです。

  • 引き継ぐ範囲があいまいなまま進む
  • 後任者が直前に決まる、前任者が次の案件と並行していて、引き継ぎの時間が取れない
  • 資料が無い、または古い。運用ルールや例外対応が前任者の頭の中にしかない
  • 「持ち帰って検討」のまま止まった判断が、引き継がれずに残る
  • 前任者の人間関係で回っていたため、担当が変わると関係者の動きが変わる
  • 離任したあと、前任者に質問できない

参考:株式会社マネジメントソリューションズ「プロジェクトを失敗させないヒント36『引き継ぎマネジメントの7つの勘所』」、秋霜堂株式会社「システム開発の引き継ぎ失敗パターン5選」

どれも、入ってから気づいても取り返しにくいものばかりです。だからこそ、ご提案の段階で「引き継ぎはありますか」「前任者とはいつまで話せますか」と聞いておく。そして入ったら、最低限を押さえて改善を前に進める。途中から入る案件では、この順番を意識しています。

「選ぶ」と「選びすぎる」は違う

ここまで「確認しましょう」と書いてきましたが、ひとつ付け加えたいことがあります。

アクセンチュアの新人時代、自習室に毎朝一番に来て、分厚い英語の本を何冊も積んで勉強している先輩がいました。私は、とんでもなく優秀な人なのだと思っていました。ところが、周りが次々とプロジェクトに呼ばれていくなかで、その先輩だけは席を動きません。私がマネージャーになっても、入社から10年たっても、状況は変わりませんでした。

先輩が呼ばれなかったのは、能力がなかったからではありません。仕事を選ぶタイプだったからです。希望を持つことや、やらないことを決めるのは大切です。ただ、目の前の仕事を選び続けると、最後は仕事から選ばれなくなります。

6項目を確認するのは、案件を断る理由を探すためではありません。自分が何を大切にしたいのかをはっきりさせ、納得して入るためです。同じ案件を長く担当して信頼を深める道もあれば、新しい現場に移り続けて幅を広げる道もあります。どちらが正解ということはありません。キャリアは、任された場所で信頼を積み上げた人から広がっていきます。

開発メンバーにもできること

案件を決める前後で、今日からできることを4つ挙げます。

  1. 面談の前に、譲れない条件と譲れる条件を書き出す:6項目それぞれについて「これだけは外せない」「ここは相談できる」を分けておくと、質問がぶれません。
  2. 聞いたことは文字で残す:口頭で聞いた条件は、面談のあとにメールなどで「この理解で合っていますか」と送っておきます。言った・言わないを防ぐ、いちばん確実な方法です。
  3. あいまいな言葉は、その場で言い換えてもらう:「上流寄り」「リモート中心」などは、「具体的には?」と一歩踏み込んで聞きます。
  4. 入ったあとも、最初の2週間で認識を合わせ直す:役割や期待されていることを、現場のリーダーと一度すり合わせておくと、ずれが小さいうちに直せます。

まとめ:案件選びも「合意」から始まる

SES案件の「話が違う」は、多くの場合、言葉の定義のずれ、聞きづらさ、情報の伝言で生まれます。商流・体制の人数・任される役割・勤務形態・単価と条件・現場の空気。この6項目を、ご提案の時点で確認しておくだけで、入ってからの事故はずいぶん減らせます。途中から入る案件なら、引き継ぎがあるかも確認し、入ったあとは最低限を押さえて改善を進めましょう。

そして、確認は断るためではなく、納得して入るためのもの。選ぶことと選びすぎることの違いを意識しながら、自分が大切にしたいことに合う現場を見つけてください。

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