プロジェクトが遅れ始めたとき、定例会議でよく聞く言葉があります。「頑張ります」です。
1〜2日の遅れなら、それで取り戻せることもあります。ただ、2か月遅れているプロジェクトで「頑張ります」と言われても、正直なところ「何を頑張るんですか?」と聞き返したくなります。遅れが大きくなるほど、気合いでは埋まりません。
この記事では、元アクセンチュアのPMOとして20年以上プロジェクト管理に関わってきた経験から、プロジェクト遅延のリカバリ計画を「頑張ります」で終わらせず、人が実際に動く計画にするための3つの条件をお話しします。炎上しかけたプロジェクトを立て直したい方、遅延対策を任されて困っている方に読んでいただければと思います。
遅れを立て直す側に回る経験を、次の現場で。
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プロジェクト遅延の現場で起きること――「残業でカバーできる範囲です」
進捗報告の定例会議では、多くの人が「順調に進んでいます」と報告します。少し突っ込まれると、次に出てくるのが「その部分は残業でカバーできる範囲です」という言葉です。
ところが実態は、すでに残業ではカバーしきれないほど遅れていたり、大きなテコ入れが必要な状態になっていたりします。私の経験では、炎上したプロジェクトほど「大丈夫です」「問題ありません」という言葉が多く飛び交っていました。
これは誰かが不誠実だからではありません。恥ずかしい、怒られたくない、見栄を張りたい。遅れているときに「遅れています」と言い出せないのは、人間として自然なことです。私自身にも、そうしてしまった経験があります。
だからこそ、遅延のリカバリは「報告を正直にしてもらうこと」から始まります。そして正直な報告が上がってきたあとに、「では何を変えて取り戻すのか」を決めるのがPMOの仕事です。
リカバリー案(リカバリ計画)が進まない3つの原因
1. 遅れが「未来の数字」になっていない
たとえば、1,000個のタスクがあるプロジェクトで、1か月たった時点で10個が遅れているとします。1,000分の10なら小さく見えます。でも、このペースが続けば、6か月後には180個ほどのズレになります。
今の遅れを「このまま進むと将来こうなる」という数字に置き換えない限り、関係者は本気で手を打とうとしません。予定と実績をグラフにして、線がどれだけ離れていくかを見せる。それだけで、会議の空気は変わります。
2. 「何を変えるか」が決まっていない
180個のズレを前にしても、「みんなで頑張るから大丈夫です」という趣旨の言葉で済ませてしまうケースがあります。しかし、一人が無限に働けるわけではありませんし、人を増やすのも簡単ではありません。
「頑張る」は計画ではありません。範囲を絞るのか、順番を入れ替えるのか、体制を変えるのか、やり方を変えるのか。変えることを具体的に抜き出して、実行するしかありません。
3. 計画を作った人が現場にいない
よくできたリカバリ計画でも、それだけで人は動きません。特に、休日対応や前倒しなど、メンバーに無理をお願いする計画ほど、「作った人は現場にいないのに」と思われた瞬間に止まります。
効いたやり方:テスト設計のやり直しから立て直した経験
アクセンチュアにいた頃、20年近く前の話です。テスト設計に間違いが見つかり、やり直しが必要になりました。でも、納期は延ばせない状況でした。
そこで私が作ったのが、「24時間、土日もテストを回し続ける」というリカバリ計画です。その計画を見た現場のキーマンに言われたのが、「お前が毎日出るなら、これでやってやるよ」という一言でした。私は「それでいいんですか? じゃあ出ます」と答え、結果として約50連勤になりました。平日は現場近くにホテルを取り、寝て起きたらまた現場、という毎日です。
先にお伝えしておくと、このやり方を誰かに勧めるつもりはまったくありません。当時と今とでは働き方も大きく変わっています。それでも、このとき学んだことは今でも私の仕事の土台になっています。
人に無理をお願いするなら、まず自分が逃げないこと。計画だけでは人は動かず、最後は「この人とならやってみたい」と思ってもらえるかどうかだ、ということです。
ただ、計画を立てて終わりではありませんでした。実際に回し始めると、細かいところでスケジュールどおりにいかないことが次々に出てきます。そこで、時間単位・日付単位の細かいスケジュールを、数十回にわたって引き直しました。変更した内容はその都度会議で連絡し、全員が最新の段取りで動けるようにしました。パズルのピースを一つずつはめ直すように組み替え続けた結果、ギリギリでスケジュールどおりに間に合わせることができました。
この経験と、その後のプロジェクトで繰り返し確かめてきたことを整理すると、人が動くリカバリ計画には次の3つの条件があります。

条件1:遅れを未来の数字で見せる
「今10個遅れている」ではなく、「このままだと半年後に180個ずれる」と伝えます。予定と実績の差をグラフにして、関係者全員が同じ現実を前提に話せる状態をつくります。お客様や責任者にも、まず現実を見てもらうところからです。
条件2:変えることを1つずつ決め、「誰が何をどこまで」まで落とす
リカバリ計画の中身は、「何を変えるか」のリストです。範囲、順番、体制、やり方。それぞれについて、誰が、何を、どこまでやるのかを決めます。言葉の解釈がぶれると、せっかくの計画も途中でタスクが漏れていきます。
条件3:お願いする側が先頭に立つ
ここで言う「先頭に立つ」は、長時間働くことではありません。判断が必要な場面ですぐに決める、関係者との調整を引き受ける、現場に顔を出して状況を自分の目で見る。お願いした側が逃げない姿を見せることが、計画を動かす一番の力になります。
もう一つ付け加えるなら、リカバリの最中こそ慌てないことです。私は見積もりのミスで会社に大きな損害を出しかけたこともありますが、そのときも慌てるより「どうしたらよいか」を淡々と考えるほうが、ずっと判断の精度が上がりました。
遅れを未来の数字で見せ、「誰が何をどこまで」に落として立て直した経験は、上流工程やPMOでそのまま強みになります。プロジェクトを立て直す側に進みたい方は、エンジニア登録ページからご相談ください。
開発メンバーにもできること
リカバリ計画はPMOやPMだけのものではありません。開発メンバーの立場でも、次のようなことでプロジェクトの立て直しに大きく貢献できます。
- 遅れに気づいたら、日数と影響範囲をセットにして早めに伝える
- 「頑張ります」の代わりに、「何をどう変えれば取り戻せるか」を一つでも添える
- 自分の担当の残作業を、件数や工数などの数字で出せるようにしておく
- 無理なお願いには、どこまでならできるかを具体的に返す
こうした動きができるエンジニアは、現場で「この人がいると計画が立てやすい」と信頼されます。それは、上流工程やPMOに進むときの大きな強みにもなります。
まとめ:リカバリ計画は「人が動くかどうか」で決まる
- 「頑張ります」が通用するのは、せいぜい1〜2日の遅れまで
- 遅れは「このまま進むとどうなるか」という未来の数字で見せる
- リカバリ計画の中身は「何を変えるか」と「誰が何をどこまで」
- 無理をお願いするなら、お願いする側がまず逃げない
計画の正しさだけでは、プロジェクトは立て直せません。最後に人を動かすのは、「この人とならやってみたい」と思ってもらえるかどうかです。遅延に直面している方の参考になればうれしいです。
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