「このプロジェクト、なんで進まないんだろう」

アクセンチュアで12年、数百人規模のプロジェクトでPMOを続けてきて、この問いに何度も向き合ってきました。遅延の報告を受けて原因を掘っていくと、たいてい行き着くのは技術の難しさでも、人手不足でもありません。

誰も決めていない。

もっと正確に言うと、「誰が決めるのか」が決まっていない。作業は止まっていないのに、決定が止まっている。だからプロジェクトが前に進まない。プロジェクトが遅延する原因を探すとき、私が最初に疑うのはいつもここです。

この記事でわかること

  • プロジェクトが「忙しいのに進まない」状態になる仕組み
  • 決定が詰まる3つの原因と、それぞれの現場でのサイン
  • 自分のプロジェクトが詰まっていないかを確かめるチェックリスト
  • 決定を前に進める3つのやり方(そのまま使える型つき)
  • 開発メンバー・リーダー・PMO、それぞれの立場でできること

止まった決定を動かす側に回る経験を、次の現場で。
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結論:止まっているのは「作業」ではなく「決定」

最初に結論を書いておきます。プロジェクトが止まるとき、足りないのは人手や技術力よりも「決める人」「決める材料」「決めたことの記録」のどれかです。

よく言われる原因実際に起きていること
人が足りない人はいるが、判断待ちで手が止まっている
技術的に難しい技術的な選択肢は出ているが、どれにするか決まっていない
スケジュールが無理前提が決まらないまま日が過ぎ、あとから無理になっている
メンバーのスキル不足決まっていないことを、決まった前提で作ってしまっている
「遅れの理由」として挙がるものの裏側に、決定の詰まりが隠れていることが多い

もちろん、本当に人が足りない、技術的に難しいというケースもあります。ただ、その場合でも「増員するのか」「方式を変えるのか」を誰かが決めない限り、状況は変わりません。結局は決定の問題に行き着きます。

作業は進んでいるのに、プロジェクトの進捗が止まる

プロジェクトが止まっているとき、現場のメンバーはたいてい忙しく働いています。設計書を書き、レビューをし、テストケースを作っている。誰もサボっていません。

それでも全体は前に進まない。よく見ると、あちこちに「保留」が積み上がっています。

  • 仕様Aにするか仕様Bにするか、2週間議論が続いている
  • 他チームとの境界にある課題が、どちらの担当とも決まらない
  • 「一旦持ち帰ります」が3回続いている
  • 課題管理表の「確認中」がいつまでも減らない

一つひとつは小さな保留です。でも保留は、その先の作業をすべて止めます。そして保留が増えるほど、メンバーは「決まったら動けるように」と別の作業で時間を埋める。忙しいのに進まない、という状態はこうして生まれます。

保留が増えると、何が起きるか

  1. 判断待ちの作業が止まる
  2. 止まった時間を埋めるため、メンバーが「たぶんこうなる」前提で先に作り始める
  3. あとで決定が出たとき、前提が違っていて作り直しになる
  4. 作り直しで予定が崩れ、さらに判断が後回しになる

この流れに入ると、進捗報告では「作業中」が並んでいるのに、完了するものが増えません。遅れが表に出るのは、たいていこの段階がかなり進んでからです。

プロジェクトの決定が詰まる3つの原因

私が見てきた現場では、決定が詰まる原因はおおむね次の3つに分かれます。

決定が詰まる3つの原因(決める人がいない・決める材料がない・決めたことが残らない)が、止まった歯車につながる図解
決める人がいない/決める材料がない/決めたことが残らない。どれか1つでもあると、プロジェクトの歯車は止まる。
原因よくある症状現場で聞こえる言葉効くほどき方
① 決める人が会議にいない同じ議論が何度も繰り返される「上に確認します」最初に「誰が決めるか」を確認する
② 決める材料がない決裁者から差し戻される「もう少し検討して」決められる形にして持っていく
③ 決めたことが残らない決まったはずの話が振り出しに戻る「そんな話でしたっけ」決定事項をその日のうちに流す
3つの原因と、それぞれに効くほどき方

1. 決める権限を持つ人が、会議にいない

議論する人はそろっているのに、決める人がいない。結論が出ても「上に確認します」で終わり、次の会議でまた同じ議論をする。会議の回数だけが増えていきます。

厄介なのは、参加者の誰も悪くないことです。担当者は自分に決める権限がないことを分かっているので、持ち帰るしかない。決める側は会議に呼ばれていないので、議論の中身を知らない。会議の設計そのものに、決める人が入っていないのが問題です。

2. 決める人はいるが、決めるための材料がない

選択肢が整理されていない、比較の観点がない、判断した場合の影響が見えない。決裁者も、材料がなければ決められません。

「もう少し検討して」と差し戻されるのは、決裁者が優柔不断だからではなく、決められる形で持っていけていないからです。決裁者は複数の案件を抱えていて、一つの判断にかけられる時間はわずかです。その時間の中で判断できるように材料をそろえるのは、持っていく側の仕事です。

3. 決めたことが、決めたことになっていない

会議で合意したはずなのに、議事録に残っていない。あるいは残っていても関係者に届いていない。数週間後に「そんな話でしたっけ」と振り出しに戻ります。

議事録が長い文章で書かれていて、決定事項がどこにあるか分からない、というのもよくある形です。記録はあるのに、誰も読めない状態は、記録がないのとほとんど同じです。

チェックリスト:あなたのプロジェクトは決定が詰まっていないか

次の項目のうち、当てはまるものがいくつあるか数えてみてください。

  • ☐ 同じ議題が、2回以上の会議で持ち越されている
  • ☐ 課題管理表に「確認中」「検討中」のまま1週間以上動いていない課題がある
  • ☐ 課題に「誰が判断するか」の欄がない、または空欄が多い
  • ☐ 会議の最後に、決まったことを口頭で確認していない
  • ☐ 議事録の共有が翌日以降になることが多い
  • ☐ 「上に確認します」で終わる会議がある
  • ☐ 決裁者に相談すると「もう少し検討して」と返されることが多い
  • ☐ 決まったはずのことについて「聞いていない」と言う人が出る
  • ☐ メンバーが「たぶんこうなるはず」という前提で作業を進めている
  • ☐ 進捗報告で「作業中」は多いのに、「完了」がなかなか増えない
当てはまった数状態の目安
0〜2個決定はおおむね回っている。今の運用を続ける
3〜5個どこかで決定が詰まり始めている。原因①〜③のどれに当たるかを確認する
6個以上決定の詰まりが遅れの主な原因になっている可能性が高い。次の3つのほどき方をまとめて試す
目安であり、プロジェクトの規模や体制によって変わります

ほどき方1:「誰が決めるんですか?」を最初に聞く

一番効くのは、議論を始める前に「これは誰が決めますか?」と確認することです。

単純ですが、これを聞かずに議論が始まっている会議は驚くほど多い。決める人がその場にいないとわかれば、「今日は材料を整理して、◯日に◯◯さんに判断してもらう」と、会議のゴールを切り替えられます。

進め方(3ステップ)

  1. 議題ごとに「決める人」を確認する:会議の冒頭で、議題ごとに誰が最終判断をするかを確認する
  2. その場で決められるかを判断する:決める人がいれば、今日決める。いなければ、今日のゴールを「材料をそろえる」に切り替える
  3. 次の判断の場を決める:決める人に、いつ・どの場で判断してもらうかを、その会議のうちに決めておく

会議の冒頭で使えるひとことの例です。

「今日の議題のうち、この場で決めたいのは◯◯です。これは△△さんの判断でよいですか?」

聞きにくい空気がある現場ほど、PMOが聞く意味があります。プロジェクトの外側から来た立場だからこそ、遠慮なく聞ける。これはPMOの大事な役割の一つだと考えています。

ほどき方2:決められる形にして持っていく

決裁者に持っていくときは、「どうしましょう?」ではなく、「AとBがあり、私たちはAを推します。理由はこれ、Bを選んだ場合の影響はこれです」という形にします。

決まらない持っていき方決まる持っていき方
問いかけ「どうしましょうか?」「Aで進めたいので、承認をお願いします」
選択肢思いつくものを全部並べる2〜3個に絞る
推奨なし(決裁者に考えてもらう)推奨案と、その理由を書く
影響書いていない選ばなかった場合に何が起きるかを書く
期限書いていないいつまでに決めないと何に響くかを書く
同じ内容でも、持っていき方で決まる速さが変わる

決裁依頼の型(そのまま使えます)

項目書くこと
決めてほしいこと何を決めてほしいかを1行で
選択肢A案・B案(多くても3案まで)
推奨どれを推すか、その理由
選ばなかった場合の影響B案を選んだら/決めなかったら何が起きるか
期限いつまでに決めてほしいか、遅れると何に響くか

これだけで、差し戻しは目に見えて減ります。決裁者の時間を使わせない資料は、それだけで信頼につながります。

ほどき方3:決まったことを、その日のうちに流す

決まったことは、会議が終わったその日のうちに、関係者全員に届く形で残します。ポイントは、議事録の冒頭に「決定事項」だけを並べることです。

決定事項担当期限決めた人
(例)画面の入力チェックはA案で進める◯◯さん◯月◯日△△部長
(例)他チームとの境界の課題は当チームが持つ◯◯さん◯月◯日△△さん
議事録の冒頭に置く「決定事項」の表の例

流すときの3つのルール

  1. 会議の最後に口頭で読み上げる:その場で認識のずれをつぶす
  2. 当日中に、関係者全員に届く場所へ流す:チャットの決まったチャンネルなど、あとから探せる場所にする
  3. 決定事項と議論の経過を分ける:経過は下に書き、決まったことだけを先に読めるようにする

地味ですが、これが一番「泥くさい」部分であり、一番効く部分です。決定が残らないプロジェクトは、同じ議論を何度も繰り返すことになります。

「誰が決めるのか」を聞き、決められる形で持っていき、その日のうちに流す。この動きは、そのまま上流工程・PMOの仕事です。こうした役割に進みたい方は、エンジニア登録ページもご覧ください(情報収集だけのご登録も歓迎です)。

立場別:明日からできること

ここまでPMOの目線で書きましたが、決定を前に進める動きは、どの立場からでもできます。

立場明日からできること
開発メンバー課題を報告するときに「誰の判断待ちか」を一言添える。相談するときは選択肢と自分の推奨を添える
チームリーダーチームの課題一覧に「判断者」と「判断期限」の欄を作る。持ち越しが2回続いた議題は、決める人を会議に呼ぶ
PMO会議の冒頭で「誰が決めるか」を確認する。決定事項をその日のうちに流す運用をチームに定着させる

こうした動きができる人は、現場で自然と頼られるようになります。そして気づけば、「作業をする人」から「プロジェクトを動かす人」になっています。私たちが一緒に働きたいのは、まさにそういう方です。

よくある質問

Q. 決める人に「それはそっちで決めて」と言われたら?

A. その場合は「では、この件は私たちで決めます。決めた内容は◯日までに共有します」と、決める権限を預かったことを言葉にして確認しておきます。あとで「聞いていない」とならないよう、そのやり取りも決定事項として残します。

Q. 決裁者が忙しくて、会議に呼べません

A. 会議に呼ぶ必要はありません。ほどき方2の「決裁依頼の型」でまとめて、チャットやメールで判断をもらう方が早いことも多いです。大事なのは、決める人が判断できる材料が届いていることです。

Q. 開発メンバーが「誰が決めるんですか」と聞くのは失礼になりませんか?

A. 聞き方次第です。「この件、どなたの判断で進めればよいですか?」と、作業を進めるための確認として聞けば、失礼になることはまずありません。むしろ、判断待ちのまま手を止めているより、ずっと喜ばれます。

まとめ:止まっているのは作業か、決定か

この記事のポイント

  • プロジェクトが止まるとき、止まっているのは多くの場合「作業」ではなく「決定」
  • 決定が詰まる原因は「決める人がいない」「材料がない」「記録が残らない」の3つ
  • ほどき方は「誰が決めるかを最初に聞く」「決められる形で持っていく」「その日のうちに流す」
  • この動きは開発メンバーからでも始められ、それが「プロジェクトを動かす人」への第一歩になる

プロジェクトが止まったら、まず「止まっているのは作業か、決定か」を見てください。多くの場合、止まっているのは決定です。そして決定は、「誰が決めるか」をはっきりさせるだけで、驚くほど動き出します。

次回は、開示するのが気まずいと思われがちな「SESの単価の内訳」について書く予定です。

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